Chocolate(なのフェイ)
仕事を終え、すっかり日も沈み終わった頃に帰宅すると、リビングでは恋人がコーヒーを飲んでいた。
「お疲れ様、なのは」
ゆっくりとマグカップをテーブルに置くと、にこりと微笑む。
「ただいま。フェイトちゃんもお疲れ様。今日は、早いんだね?」
いつも忙しく留守がちな恋人は、概ね私よりも帰宅が遅かった。
「うん……。なんとなく疲れたから、今日は早く帰ることにしたんだ」
そう言えば、心なしか顔が赤い。
心配になって、フェイトちゃんに近寄り前髪を上に避けると、おでこを押し当てた。
「な、なのは?」
少し、驚いたような声を上げるフェイトちゃんと間近で見つめ合う。
フェイトちゃんはさらに顔を赤くして、上目遣いに私を見た。
額から伝わってくる熱は、それほど熱くはない。
「うん、熱はないみたいだね」
そう言っておでこを離すと、ほっとしたような表情。
「体調は、悪くないんだよ?ちょっと疲れたかな、ってだけで……」
そう言って、フェイトちゃんは頬を染め少し俯く。
「そう?ならいいけど……」
体調が悪くないことにほっとしつつも、少し胸に引っかかるものがあって釈然としない。
気のせいかもしれない、そう思って冷蔵庫から冷えた紅茶を取り出して、口に含んだ。
はなやかな香りと、ほんのりとした渋みが口に広がる。
ふと冷蔵庫の中を覗くと、昨日管理局の売店で買ったチョコレートが目に付いた。
新人の子がおいしいと言っていたのを一口もらったら本当においしくて、すぐに売店で買ったが、忙しくて食べるのを忘れてしまっていた。
くるり、包みを解いて一つ食べると、カシスの風味と甘みが疲れた体に心地いい。
続いて、もう一つ口に含むと、フェイトちゃんと目が合った。
フェイトちゃんはじっと私の口元を見ていたが、目が合うと顔を赤くしてそそくさと視線を逸らしてしまう。
不思議に思ったが、すぐに理由を思いつき紅茶とチョコレートを持ってフェイトちゃんの隣に腰掛けた。
「あーん」
チョコの包装を一つ解くと、フェイトちゃんの口元に寄せる。
「え、え?なのは?」
フェイトちゃんは顔を真っ赤にして少し体を引く。
「あーん」
にっこり笑ってもう一度同じ言葉を繰り返すと観念したように目をつぶって、ぱくり、チョコレートを食べる。
フェイトちゃんの柔らかい唇が指に触れた。
「おいしい?」
「う、うん……」
頬を染めながらもぐもぐと口を動かすフェイトちゃんが可愛くて、もう一つ包装を解く。
「じゃあ、もういっこ」
そう言ってもう一度口に寄せると、今度はすぐに、チョコレートは指先から消えた。
私の体温で溶けたチョコレートが指に付いてしまい、ぺろり、それを舐め取る。
ふと気づくと、またフェイトちゃんの視線。
「どうしたの?フェイトちゃん。チョコレート、食べたかったんだよね?じーっと見てるんだもん」
笑いながらそう言うと、恥ずかしそうに俯いてしまう。
「フェイトちゃーん?」
そんなに恥ずかしがることでもないのに、そう思って俯いてしまった顔を覗き込もうとした瞬間、唇に柔らかい感触。
フェイトちゃんの唇が、私の唇を塞いでいた。
そのまま肩を押されると、ソファに仰向けに倒れてしまう。
かさり、チョコレートの箱が床に落ちた。
いったん離れたフェイトちゃんの唇が、もう一度重ねられる。
私を抱きしめる、腕。
耳元で、せつなそうに名前を囁かれると、視線の意味がやっとわかった。
照れ屋な恋人にくすりと笑うと、潤んだ紅い瞳に見つめられる。
少しだけ、焦れたような表情。
もう一度微笑んで今度は私から口付けると、甘い、チョコレートの味がした。