大晦日。

明けたのに、逆行。
大晦日ななつきSSです。
とても短いです。
なつきさんもたまには会長を想って…。
全年齢対象w









「ふぅ…。」

ゆっくりと湯船に身体を沈めると、自然とため息が漏れた。

今日は12月31日。
大晦日だ。
耳を澄ますと、ゴーン、ゴーンと、除夜の鐘の音が聞こえる。

  そう言えば、除夜の鐘って108回鳴らすんだよな。
  この間あいつが言ってたっけ…。




「なつき、除夜の鐘いうんは108回鳴るんどす。
人間には108個の煩悩があるさかい、それを払うために鐘を鳴らすんよ。
うちも、来年明けたら少しは煩悩が消えてるとええんやけど―――」



そう笑いながら言った静留は、今は京都だ。
年末年始は色々と挨拶回りやら、親族の顔合わせがあるやらで忙しいらしい。
本当は一人で年を越すなつきのそばにいたかったのだが、普段親と会っていない分、こういう時でないと帳尻あわせができないのだ。
最後まで、残念がっていた親友の顔が思い出される。


「あいつは、いつもそうなんだ…。
私のことより、もっと自分のことを優先すればいいのに…。」

湯船に映る自分の顔に話しかける。
思い出すのは、HIME同士の戦い。
今年は本当に色んな出来事があった。

  108回、か…。
  煩悩だけじゃなくて、嫌な思い出も消してくれたら―――。

一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、頭を振ってすぐに打ち消す。


  …いや、あの戦いがあったから自分の大切のものに気づくことができたんだ。
  意外に、人と関わっていくのも面白いと、思う。
  そして、それに気づかせてくれたのは静留、だったんだよな。


そんなことを考えていると、あの花壇でのやりとり、生徒会室での幾度の逢瀬、教会での出来事…、そんな記憶が溢れて来る。

  いつも傍に静留がいたけど、今は、一人なんだな…。
  こういうの、寂しい、というのか…。

「は…、必要なのは、私の方か…。」

そう言って、ぶくぶくと湯船に沈む。
なつきの顔は、赤い。

  そろそろ、出るか。

除夜の鐘はとっくに鳴り終わっていた。







お風呂から上がり、リビングへ向かう。
暖房は効いているのに、一人のリビングはいつもより寒い。
ソファに投げてある携帯を見ると、着信とメールが何件かあった。
着信は、静留。
時間を見ると、12時を少し過ぎたころに、二回。
それほど時間も経っていないため、折り返す。

コール音が数回なって、懐かしい声と、人のざわめきが耳に入った。

「なつき?明けましておめでとう。今年もよろしゅうお願いしますな?」

周囲のざわめきで少し聞き取りづらいが、いつもと同じ、流暢な京言葉。

「ああ、私こそ、今年もよろしく。
今、どこにいるんだ?結構ざわざわしてるが…。」
「今?初詣に来てるんよ。なつきは家?ちょぉうるさいかもしれませんなぁ、堪忍。」
「そうか…。私はさっき風呂から出たとこだ。風呂で除夜の鐘を聞いたんだ。」
「そうなん?せやったら、おんなじ時間におんなじもん聞いとったんやなぁ。」
「ああ、そうだな。」
「なつき?どないしたん?なんや元気ないように聞こえるんやけど…。
もしかして、うちがいぃひんからさみしなったん?」

次の瞬間、なつきの声と、静留の背後の若い男性のはしゃぐ声が重なる。

「え?なつき?堪忍、よう聞こえへんかったんやけど…。」
「だっ!もういい!何回も言うか!…じゃあな。」
「えっ?なつ―――」

ブチッと携帯を切り、ソファに放り投げた。
そのままクッションを抱え、カーペットに倒れこむ。

まだ少し濡れた髪が冷たくて、火照った頬に当たるのが気持ちよかった。
クッションを持つ手に力が入る。
聞こえなくてよかった、と思う。
きっと聞こえていたら明日の朝一にでも帰ってこようとするに違いないから。

でも、少しだけがっかりしていた。
少しだけ、期待したから。
すぐに帰ってくる、その言葉と、自分の想いが伝わるのを。