そぼくなぎもん(高町家)
「ねぇなのはママ、せっくすってなに?」
ヴィヴィオの口から飛び出した突然の疑問に、高町家の昼下がりの平穏な空気はすっかり凍り付いてしまった。
疑問を向けられた当事者のなのはは今まさに飲み込もうとしていた紅茶を正面にいたフェイトの顔に吹きかけ、そしてむせる。
「ごほっ、ヴィ、ヴィヴィオ!どこでそんな言葉覚えたの?!」
ほんのり頬を染め身を乗り出してヴィヴィオに問いかけると、ヴィヴィオはそれほどなのはをうろたえさせるような事を言ったのかときょとんとした表情で首を傾げた。
「学校だよ?」
「そう……学校なんだ。わかったよ。今度シャッハさんにお話聞かせてもらわなきゃ、ね――」
首から下げたレイジングハートを軽く握りながらゆらり、ピンクの魔力光が立ち上る。
「シャッハ先生?それより、せっく――」
「――ヴィヴィオっ!!」
望む回答が得られなかったヴィヴィオがもう一度先ほどの質問を繰り返そうとすると、なのはの切羽詰ったような呼びかけに遮られた。
「どうしたの?なのはママ?」
「ヴィヴィオ、あのね、そういうことはあまり人前で言っちゃいけないんだよ?」
「せっくす?」
「あああああああ!だ、だから言ったらだめなの、ヴィヴィオ!」
言葉の意味もわからないにもかかわらず理由も教えられないままの禁止令にヴィヴィオは不満顔でむくれる。
「――どうして?なんでいっちゃだめなの?」
「だ、だからね、それはその――」
なのははどうしたらいいのか迷っていた。
当然子供が学校に通えばそう言った話や知識は友達同士の会話で自然と備わっていくだろうし、性教育だっていつかはしなければならない。
そうはわかっていてもいきなり単刀直入全力全開で聞かれればどう伝えていいものか、迷ってしまう。
いけないこと、ではないのに。
頬を染め言いよどんでいると、両の肩に温かな手が置かれた。
「あ、フェイト、ちゃん……」
なのはが見上げると、紅い瞳がやさしく微笑む。
「ヴィヴィオ、なのはママをあまり困らせちゃダメだよ?代わりに私が教えてあげるから。ね?」
「うん!ありがとうフェイトママ!」
フェイトの言葉にぱあっとヴィヴィオの表情が輝いた。
――フェイトちゃん、ごめんね?
――大丈夫だよ、なのは。私に任せて。
念話を交わして微笑み合うと、ヴィヴィオに向き合うフェイト。
「ヴィヴィオ、セックスって言うのは愛し合う二人がすることなんだ。お互いが弱いところも、汚いところも全部見せ合って、愛してる、大事に想っているよって伝え合うんだよ。すごく素敵なことなんだ」
内心フェイトがどんな風に説明するのか不安だったなのはだが、思ったよりも、いやかなりまともな説明にほっと息を吐く。
「すごくすてきなこと……じゃあ、ヴィヴィオもしたい!」
期待に手を握り締めきらきらした顔でフェイトを見つめるヴィヴィオに優しく微笑むと、さらりと頭を撫でた。
「そうだね。でもね、ヴィヴィオ。本当に愛してる人とじゃなきゃできないし、するとコウノトリさんが赤ちゃんを運んできちゃうからヴィヴィオにはまだ早いかな?もう少し大人になったら、ね?」
「うー。じゃあ大人ななのはママとフェイトママはしてるの?セックス……」
無垢な子供の素朴な疑問は、ついに最も答えづらいところへ。
さすがのフェイトも顔を赤くしてなのはを振り返るが、同じように頬を染めたなのは。
――どどどどうしよう、なのは!!
――どうしようって言われても、私もわからないよフェイトちゃん!
――わ、私は言っちゃってもいいけどな。なのはとの愛は別に恥ずかしいことじゃないし……。
――っえぇ!言っちゃうの?!さすがにそれはまずいと思うの……。
――そ、そうかな?むしろ私は教えてあげたいな。ヴィヴィオのママたちはこんなに愛し合ってるんだって……。なのはママはベッドの中でもエースオブエー――
フェイトの言葉は最後まで言い切ることなく鈍い音に遮られた。
「フェイトちゃん!!」
頬を染めたなのはのチョップがフェイトの脳天に炸裂する。
「い、痛いよなのは……」
「フェイトちゃん、おかしなこと言わないの!もう!ヴィヴィオ、なのはママがキャラメルミルク作っ
てあげるから、あっちいこ」
なのははフェイトの呼びかけにも答えず、ヴィヴィオの背を軽く押すとキッチンの方へと促した。
「う、うんなのはママ……フェイトママは?」
キッチンに向かうヴィヴィオが後ろを振り返ると、半分涙目のフェイト。
「フェイトママのことなんか、知りません」
返ってくるのは平たんななのはの声。
ヴィヴィオは話の流れがわからないながらも自分の質問のせいでこんなことになってしまったこ
とを心の中でフェイトに申し訳なく思いつつ、やっぱり、なのはママもフェイトママもしてるんだ、と納得してにこり微笑んだ。
せいべつのことに決まってますよ。もちろん。